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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)9922号 判決

原告

小山一雄

被告

日本発馬機株式会社

【事実】

第二 当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、左記二件の実用新案権の考案者である。

(一)考案の名称 競走馬用発馬機

出願日 昭和四八年一〇月四日

出願公告日 昭和五二年八月三一日

登録日 昭和五三年六月二七日

登録番号 第一二三二一六九号

実用新案登録請求の範囲 別添実用

新案公報の該当欄記載のとおり

(以下、右実用新案権を「本件発馬機実用新案権」といいい、その考案を「本件発馬機考案」という。)

(二)考案の名称 発馬機用後扉の係止装置

出願日 昭和四八年一〇月四日

出願公告日 昭和五一年九月二八日

登録日 昭和五二年一〇月二八日

登録番号 第一一九九四〇一号

実用新案登録請求の範囲 別添実用

新案公報の該当欄記載のとおり

(以下、右実用新案権を「本件係止装置実用新案権」といい、その考案を「本件係止装置考案」という。また本件発馬機実用新案権と本件係止装置実用新案権をまとめて「本件各実用新案権」と、本件発馬機考案と本件係止装置考案をまとめて「本件各考案」ということがある。)

2  原告は、本件各考案の実用新案登録出願をするに際し、弁理士金丸義男他に対し、被告専務取締役小山一雄と記名しその職印を押捺した委任状を作成して出願手続を委任し、右出願代理人は、出願人名義を被告として、昭和四八年一〇月四日、本件各考案の実用新案登録出願手続をした。

3  被告は、昭和五二年二月二一日、本件発馬機考案につきその実用新案登録を受ける権利を原告に譲渡し、原告が特許庁長官に対し出願人名義変更届を提出したことにより、本件発馬機考案についての出願人は原告に名義変更された。

4  被告は、昭和五二年一〇月二八日、本件係止装置実用新案権を原告に譲渡し、昭和五三年三月一六日、本件係止装置実用新案権について被告から原告への移転登録手続がなされた。

5  被告は、別紙目録(一)記載の競走馬用発馬機及び同目録(二)記載の発馬機用後扉の係止装置を業として使用している。

6  別紙目録(一)記載の競走馬用発馬機は本件発馬機考案の、同目録(二)記載の発馬機用後扉の係止装置は本件係止装置考案の、各技術的範囲に属する。

7  よつて、原告は被告に対し、本件発馬機実用新案権に基づき別紙目録(一)記載の競走馬用発馬機の、本件係止装置実用新案権に基づき同目録(二)記載の発馬機用後扉の係止装置の、各製造、使用、譲渡、貸し渡し、譲渡もしくは貸渡のための展示をしないよう求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1、2の各事実は認める。

2  同3の事実中、本件発馬機考案につき出願人が原告に名義変更されたことは認めるが、その余は否認する。

3  同4の事実中、本件係止装置実用新案権につき、昭和五三年三月一六日、被告から原告への移転登録手続がなされたことは認めるが、その余は否認する。

4  同5、6の各事実は認める。

三  抗弁

1  原告は、被告から本件発馬機考案につきその実用新案登録を受ける権利を譲受けた旨主張する昭和五二年二月二一日当時及び本件係止装置実用新案権を譲受けた旨主張する昭和五二年一〇月二八日当時、被告の代表取締役であつた。よつて、右譲渡については被告取締役会の承認を要する。

2  原告は被告に対し、本件各実用新案権につき通常実施権を許諾した。

3  本件各考案は、以下に述べるとおり職務考案に該当するので、被告は本件各実用新案権につき法定の通常実施権を有する。

(一)  被告の業務

被告は、特殊法人日本中央競馬会(以下、「中央競馬会」という。)が開催する中央競馬の発走作業並びに発馬練習作業に際して、被告の所有する発馬機を場内に持ち込み、従業員を派遣して発馬機の保守整備に当らせ、かつ競走ごとに発馬機を設置及び撤去する業務を主として行なつており、そのためには、発馬機及び競馬に関連するあらゆる器材の開発、改良、設計、製作、販売、賃貸並びにこれらに伴う特許及び技術の発明開発、またそれらの有償供与、技術作業員の派遣等をも業務としている。

(二)  原告の職務

原告は、昭和四〇年九月一日に被告が設立されて以来昭和五四年一二月一六日辞任するまで、被告の代表取締役として会社業務全般を統轄するとともに、ことに技術問題については、研究開発、進歩改良を自ら又は指導して行なう職責を有し、特により良い発馬機の開発改良にあたつては、技術担当の最高責任者であつた。

(三)  競走用発馬機及び発馬機用後扉の係止装置に関する本件各考案をすることは、前述のとおり、被告の業務範囲に属する事柄でありかつ原告の職務に属するものである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1及び2の事実(但し、被告取締役会の承認を要するとの部分を除く。)はいずれも認める。

2  同3冒頭部分は争う。

(一)  同3(一)の事実中、被告が発馬機及び競馬に関連するにあるゆる器材の開発、改良、設計、製作並びにこれらに伴う特許及び技術の発明開発、またそれらの有償供与、技術作業員の派遣を業務としていたことは否認し、その余は認める。

(二)  同3(二)の事実中、原告が、被告の設立以来辞任するまで、被告の代表取締役として会社の業務全般を統轄していたことは認めるが、その余は否認する。

(三)  同3(三)の事実は否認する

五  再抗弁

1  抗弁1に対し

(一)  原告が本件各考案の実用新案登録出願をする際、被告専務取締役として出願代理人に出願手続を委任したのは、手続書類上考案者が原告となつていれば原告が権利者になるものと誤解してしまつたことによる。したがつて右委任は誤つており、右のような手続をとつたことにより形式上本件各考案の実用新案登録を受ける権利は被告に譲渡されたことになるが、右譲渡は要素に錯誤があり無効である。

そこで、原告としては、被告を権利者とする実用新案登録の抹消を求めるなどして、新たに原告を出願人として出願しなおすのに代えて、権利者でない被告名義のものを真の権利者である原告に回復するための便法として、本件発馬機考案についての実用新案登録を受ける権利と本件係止装置実用新案権を被告から譲受けたのであるから、これによつて被告の利益が害されることはなく、したがつて右譲渡には商法第二六五条に定めるところの取締役会の承認は必要ない。

(二)  本件係止装置実用新案権の被告から原告への譲渡については、被告取締役会の承認を得ている。

2  抗弁2に対し

原告被告間の本件各実用新案権の通常実施権許諾契約は無償のものであることから、使用貸借契約に準ずるものとして、原告はいつでも右契約を解約しえるものであるところ、原告は、昭和五四年一二月一六日被告の取締役を辞任したため、被告に対し、昭和五五年二月一四日到達の書面をもつて、右契約を解約する旨の意思表示をした。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1(一)、(二)の事実はいずれも否認する。

2  同2の事実中、原告が昭和五四年一二月一四日被告の取締役を辞任したこと、被告に対し、昭和五五年二月一四日到達の書面をもつて、通常実施権許諾契約を解約する旨の意思表示をしたことは認める。

七  再々抗弁(再抗弁2に対し)

原告が被告取締役を辞任したのは、原告が被告の資金を横領し、このことは新聞等で大々的に報道され、また、被告から告訴され、刑事責任を追及されるなど、専ら自らの責に帰すべき事由によるものであるから、かかる理由により被告取締役を辞任したことをもつて、原告、被告間の本件各実用新案権の通常実施権許諾契約を解約することは、権利の濫用というべきであつて許されない。

八  再々抗弁に対する認否

再々抗弁は争う。

【理由】

一本件各実用新案権の帰属

1  請求の原因1、2の事実及び本件発馬機考案につき出願人が原告に名義変更され、本件係止装置実用新案権につき昭和五三年三月一六日被告から原告への移転登録手続がなされたことは、いずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第九号証の一ないし三、第一六号証の一ないし四によると、被告は、昭和五二年二月二一日本件発馬機考案の実用新案登録を受ける権利を原告に譲渡し、原告が特許庁長官に対し出願人名義変更届を提出したこと、被告は昭和五二年一〇月二八日本件係止装置実用新案権を原告に譲渡したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  原告が昭和五二年二月二一日当時及び同年一〇月二八日当時被告の代表取締役であつたことは当事者間に争いがない。

そこで本件発馬機考案の実用新案登録を受ける権利及び本件係止装置新案権を被告が原告に譲渡するにつき、商法第二六五条に定める取締役会の承認が必要か否かにつき判断する。

前記当事者間に争いのない請求の原因1、2の事実と成立に争いのない乙第一号証、第一三号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告が、本件各考案をした際にも原告は被告の代表取締役であつたこと、当時、被告には、職務考案につき使用者に実用新案登録を受ける権利もしくは実用新案権を考案者から承継する旨の勤務規則等は存しておらず、原告が本件各実用新案登録を受ける権利を被告に譲渡する旨の契約書、譲渡証等の書面も作成されていないこと、本件各実用新案登録出願をなすに際し、被告代表取締役であつた原告は、考案者、出願人がそれぞれ登録後いかなる地位、権利を取得できるかにつき理解することなく弁理士金丸義男他四名に対し出願手続を委任し、その際被告専務取締役小山一雄と記名しその職印を押捺した委任状を作成したこと、したがつて形式的にはそこに実用新案登録を受ける権利の考案者から出願人への譲渡があつたことになるものの、原告にはその権利を被告に譲渡する意思はなかつたことが認められるので、右譲渡は意思表示の要素に錯誤があり、無効といわざるを得ない。

そして<証拠>によると、被告から原告への本件発馬機考案の実用新案登録を受ける権利及び本件係止装置実用新案権の譲渡は、本来出願人あるいは実用新案権者でないにもかかわらず、出願人あるいは実用新案権者となつていた被告が、その名義を真の出願人あるいは実用新案権者である原告に回復するために行なわれたものと認めることができるから、これによつて被告の利益が害されることはなく、右譲渡については商法第二六五条に定めるところの取締役会の承認は必要ないものというべきである。

3  以上の次第であるから、その余の点につき判断を加えるまでもなく、本件各実用新案権の権利者は原告であると認められる。

二職務考案の成否

1  被告が中央競馬会の開催する中央競馬の発走作業並びに発馬練習作業に際して、被告の所有する発馬機を場内に持ち込み、従業員を派遣して発馬機の保守、整備に当らせ、かつ競走ごとに発馬機を設置及び撤去することを業務としていること、原告は昭和四〇年九月一日に被告が設立されて以来、昭和五四年一二月一六日に辞任するまで、被告の代表取締役として会社業務全般を統轄していたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によると、被告は、中央競馬会関係が資本金五〇〇万円中の二五五万円を出資している会社であり、定款に定める業務範囲は、発馬機の販売、発馬機の賃貸、発馬機の整備の請負、競馬場整備の請負、その他前各号に付帯する一切の業務であることが認められる。

2  <証拠>によると、次の事実を認めることができる。

(一)  中央競馬会は、従前から中央競馬に使用しているウッド式発馬機に種々の欠点があることから、株式会社野沢組を通じて諸外国の発馬機を輸入するなどして、新型発馬機開発のための研究を行なつていたが、被告設立後は年二回中央競馬会で開催される発走関係者会議に被告の出席をも求め、新型発馬機の研究開発についての協議を行ない、右協議結果に基づいて、被告に昭和四四年、橋梁式全アルミ製発馬機(以下、「試作一号機」という。)を発注し、被告は古河電気工業株式会社を選定してこれを下請製造させ、同年一二月九日には八頭枠分を、昭和四五年一一月には三二頭枠分の試作一号機を中央競馬会へ納入した。

(二)  中央競馬会の発走関係者会議には、新型発馬機開発の基本理念の説明、進捗している試作一号機の開発の経緯の説明など技術的事項の説明のためには、原告が被告の専務(代表)取締役として出席しており、中央競馬会の発走関係者会議で試作一号機の実用化テストを各競馬場においてなした結果の検討を行なつた際にも、原告が被告の専務取締役として技術的説明、意見の具申を行なつた。

また、被告は、昭和四七年八月から九月にかけて二度にわたり原告をヨーロッパ、ニュージーランドなどの海外へ出張させ、各競馬場で使用されている発馬機を見聞させたが、原告は帰国後の同年一〇月二日の発走関係者会議で、海外出張の報告を行ない、ウッド式発馬機の如き旧式のものを現在使用している国はなく、橋梁式発馬機を採用すべきであること、しかし直ちに輸入して我が国で使用できる発馬機はなく、やはり我が国では独自に発馬機を開発していかなければならない旨申し述べ、試作一号機は満足すべきものではないので、今後被告は、中央競馬会から受注するものとは別に、独自に新型発馬機の試作機を製作していきたい旨述べた。

なお、試作一号機は、最終的には昭和四七年末に、それまで行なわれてきた実用化テストの結果、種々の欠点が指摘されたこともあり、良い点をウッド式発馬機の改良に取り入れていくことで、その使命を終了した。

(三)  被告は、昭和四八年三月、原告の海外視察の結果を踏まえて、新たに新型発馬機の開発に着手したが、右新型発馬機の試作機は、中央競馬会から受注したものではなかつたため、被告は、銀行から一四〇〇万円の融資を受け、右費用をもつて試作機製造のための費用にあてざるを得なかつた。

被告は、昭和四八年九月、橋梁式新型発馬機の試作機(以下「試作二号機」という。)一二頭枠分を完成させ、これを中央競馬会に提供した。中央競馬会は、試作二号機について種々の実用化テストを重ね、被告と協議の上でこれに改良を加えた結果、正式に中央競馬用の発馬機としてこれを採用するに至つた。これが、現在中央競馬で使用されている別紙目録(一)記載のいわゆる四八式発馬機である。

(四)  本件発馬機考案は、橋梁式発馬機において、数台の発馬機を連結する際の連結部の長さを可及的に短くするための考案であり、本件係止装置考案は、発馬機用後扉を大きく開放することができかつワンタッチ式で閉鎖できるようにするための考案である。そして、本件発馬機考案は、数台の発馬機を連結する方式を採用した試作二号機の製作の過程で原告により考案されたものであり、本件係止装置考案は、試作一号機ないし試作二号機の製作の過程で原告により考案されたものである。

(五)  被告には、試作一号機、試作二号機製作当時、新型発馬機開発に関する技術を有する者としては原告一人しかいなかつたといつても過言ではなく、原告は、新型発馬機開発に関して、中央競馬会の希望を発馬関係者会議への出席などにより知り、これに沿うべく、実際の発馬機の作動にたずさわる被告従業員の意見なども取り入れた上で、その基本的な方向付けをして、それぞれの部品につき下請製造業者を選定して、製造させ、これを統轄しつつ試行錯誤を繰り返して試作一号機及び試作二号機を完成させたのであり、試作一号機についても、中央競馬会から被告が受注し、単にこれを下請製造業者に取り次いだのみでは、馬の習性についての知識も、また発馬機製造の経験も乏しい業者をして発馬機を製造させることは到底できなかつたものである。

なお、原告が新型発馬機開発のためあるいは本件各考案のために支出した費用は、すべて被告から出捐されており、原告個人が支出したことはなかつた。

3(一) 以上認定の事実によれば、試作一号機、試作二号機を製造すること、その過程で本件各考案をなすことが被告の業務範囲に属する事項であることは明らかであり、被告の代表取締役でありかつ技術分野の仕事を一手に引受けていた原告が、その技術、知識を活用して、試行錯誤を繰り返しつつ試作一号機、試作二号機の製造にあたることは、原告の職務であると認めることができる。そして、本件各考案は、右試作機を完成させていく過程で、これと不可分な形で生み出されたものであつて、したがつてかかる考案をすることもまた原告の職務に属するものと認めることができる。

(二)  原告本人は、本件各考案は、被告の代表取締役としての立場を離れて、原告個人としてなしたものである旨供述するが、本件にあらわれたる全証拠中、原告の右供述以外は、新型発馬機開発にあたつて原告が個人として行動したことを示すものは一切存しない。原告は、個人としての立場で、発走関係者会議に出席して、新型発馬機開発について中央競馬会に対して発言権を有するいわれも、被告の費用をもつて本件各考案をなし、各部品の下請製造業者に指示を与えうるいわれもなく、これらはいずれも被告代表取締役であるからこそなしえたものというほかはない。

(三) そうすると、本件各実用新案権について、被告は、実用新案権法第九条第三項で準用する特許法第三五条第一項に定めるところの通常実施権を有するものであり、被告が使用している別紙目録(一)記載の競走馬用発馬機が本件発馬機考案の技術的範囲に属し、同(二)記載の発馬機用後扉の係止装置が本件係止装置考案の技術的範囲に属することは当事者間に争いがないから、原告は被告の別紙目録(一)記載の競走馬用発馬機及び同(二)記載の発馬機用後扉の係止装置の使用差止を求めることはできない。

(牧野利秋 飯村敏明 高林龍)

目録(一)、(二)<省略>

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